浜松地域スタートアップ連携促進事業
December 27, 2025

【遠鉄グループ × 株式会社パズルリング】-地域企業インタビュー編-

成長戦略として「協業・共創」に取り組む、遠鉄グループが語るハマハブ!活用のリアル

鉄道・バスを祖業に、不動産、小売、ウェルネスなど幅広い生活産業を展開する遠鉄グループ。同グループは近年、事業価値の更なる向上と社会課題の解決を両立する成長戦略の一環として、スタートアップとの協業・共創に本格的に取り組んでいます。

その実践の場の1つが、浜松市発の共創マッチングプラットフォーム「ハマハブ!」です。実際に、ハマハブ!を通じて生まれたスタートアップ・株式会社パズルリングとの連携事例をもとに、地域企業にとっての共創のヒントを探ります。

遠州鉄道株式会社より、オープンイノベーションを推進する地域共創推進室の桐岡俊太郎氏(以下、桐岡氏)と、プロダクトの実装を担った不動産事業部の内山眞佑氏(以下、内山氏)に話を伺いました。

「地域に欠かせない企業」になるために選んだ協業・共創という手段

桐岡氏(写真左)、内山氏(写真右)

――なぜ今、遠鉄グループでは外部との協業・共創に力を入れているのでしょうか?

桐岡氏:そこには、これまで大切にしてきた”自前主義”を、次の成長フェーズに合わせて進化させていこうという意思がありました。遠鉄グループ内の多様なアセットを生かしてスピーディーに正解に辿り着けることは、私たちの社風であり強みの1つだといえます。

ただ、“自前主義”は自社の収益性を高めてくれる一方、自社に閉じやすく、新たなチャレンジが生まれにくい弊害もありました。

変化が激しい不確実な時代においては、既存の枠組にとらわれず、あらゆる変化に対応できる柔軟な発想や多様な価値感がないと、地域社会の課題解決はもちろん、お客さまのニーズに応えることも、企業としての持続的な成長も望めません。

もう一度「地域とともに歩む総合生活産業として社会に貢献する」という経営理念に向き合い、地域社会の課題にこれまで以上に目を向けつつ、我々の事業を通じて深く関わることで、社会的価値と経済的価値の双方を生み出し、その結果として地域の皆さまから「あってよかった」と思っていただける企業であり続けるために、経営戦略の実行手段として着目したのがオープンイノベーションです。

自社のリソースだけで解決できない課題に対し、スタートアップなど外部の知見や技術を取り入れ、ブレイクスルーにつなげる。それが結果として地域社会の課題解決にもつながると考えています。

2024年4月には地域共創推進室を新設し、社外プレイヤーとの関係を構築しながら、これまでよりも広い視野で地域のニーズや社会課題に向き合っています。

遠鉄グループの幅広い事業領域

――オープンイノベーションの手段として「ハマハブ!」を選んだ経緯を教えてください。

桐岡氏:ハマハブ!については、浜松市が運営するプラットフォームとしての信頼性に加え、地域発で協業・共創を実践できる点に大きな可能性を感じ、参画を決めました。なかでも、事務局がスタートアップの強みと自社の課題や実現したい価値を仲介してくれるので、より実効的な協業・共創に取り組めると思ったことが決め手です。

実はハマハブ!への参画と同時期に、2024年10月に名古屋で開業した国内最大級のオープンイノベーション拠点「STATION Ai」にも参画しています。そこではとくに、自社の課題や実現したい価値をどう言語化し、どう協業・共創を進めていくのかという“型”を学んできました。

STATION Aiでも協業・共創を進める一方で、やはり我々の地元である浜松で活動を活発化させることで、地域に貢献していきたい。そのような想いから、地元でオープンイノベーションを実践する場としてハマハブ!に参画しています。

協業・共創の起点は自社の課題を言語化すること

遠鉄グループのサブブランドとして展開

――今回、ハマハブ!を通じてライセンス契約に至ったのが、株式会社パズルリングの「lastmessage(ラストメッセージ)」です。これは、万が一の時に備え、デジタル資産の情報や自身の想いを大切な人に託すことができるサービスです。どのように提携を決めたのでしょうか。

桐岡:ハマハブ!を通じていただく提案については、私が窓口となり提案内容を精査しています。その際に意識しているのは、全社横断で一気に進めるのではなく、親和性の高い部署からスモールスタートすることです。

実は、パズルリング社からの最初の提案は、遠鉄グループの関連事業をまたぐ、いわゆるエンディングサービスのような内容でした。そこからサービスについて詳細を聞くと、lastmessageのサービス内容を深く理解する中で、不動産事業部の相続支援領域と高い親和性があると判断しました。

というのも、不動産事業部には2021年に立ち上げた「遠州鉄道相続サポートセンター」があり、そこで相続に関するお悩みに応えているためです。lastmessageはいわゆる法的な遺言ではありませんが、デジタル媒体に個人情報や想いを遺したいというニーズと合致しています。すぐ内山さんに声をかけ、初回の商談から参加してもらいました。

――不動産事業部としては、どのような印象を持たれましたか。

内山氏:まさに事業との親和性が非常に高いと感じました。遠州鉄道相続サポートセンターには、日ごろから相続に関するご相談が寄せられますが、最近はデジタル資産に関するお悩みも増えているためです。

「親が亡くなったがスマホが開けない」「ネット銀行の口座がわからない」といったお困りごとが、相続の現場では実際に起きています。lastmessageのサービスは、そうした悩みに対する1つの答えになり得るものだと感じ、すぐ提携の検討に入りました。

――提携に至った決め手は何でしたか?

内山氏:既存の相続対策セミナーや実務のオペレーションに、無理なく組み込める点が大きかったですね。私たちの相続対策セミナーでは、デジタル資産について触れる単元があります。そのなかで「このツールなら、万が一の時だけ情報が届くので安心ですよ」と、lastmessageをご紹介しています。

セミナーの流れで自然にご案内できれば、ユーザー数もじわりじわりと増えていきます。このように実務内で活用しやすいサービスであること、そして何よりお客さまのお悩み解決につながることが明確だったため、判断はスムーズでした。

――契約や実務面でのハードルはありましたか?

桐岡氏:今回はライセンス契約という比較的シンプルな形だったこともあり、大きな障壁はありませんでした。オンラインでのやり取りも駆使しながら、スピード感を持って進めることができたと思います。

――協業が奏功したポイントは何でしょうか?

内山氏:事業部門としては、現業とのつながりを意識しています。現場のオペレーションに無理なく乗る形であれば、協業は進めやすいと思いますので。

桐岡氏:自社の課題や実現したい価値を明確にし、オープンに発信することを意識しています。協業は、企業価値向上のために必要な「ミッシングピース(欠けているリソース)」を補うための手段です。スタートアップ側が「これは一緒に取り組みたい」とすばやく判断でき、案件の優先順位を高めてもらうためにも、自社のミッシングピースは明確にしたいところです。

一方で、私たちはあえて、ハマハブ!に掲載する募集テーマを抽象的にしています。自社の事業領域が広いからこそ、スタートアップのシーズ起点での提案も含め間口を広げることで幅広い提案や我々には思いつかない斬新なアイデアを得たいと考えました。このことはエントリーの獲得に寄与しています。

成功事例を積み重ね、挑戦を社内の文化にする

――今回の連携による具体的な効果や、社内の変化について教えてください。

内山氏:lastmessageは、私たち遠州鉄道相続サポートセンターの新たな武器になっています。従来の方法の弱みを補完する、具体的な解決策をご案内できるようになりました。また、親子間で相続の話をするコミュニケーションツールとしても機能しはじめています。「遠鉄が勧めているアプリだから、よかったら情報を入力してみない?」と、家族で終活を考えるきっかけにご活用いただけると思います。

社員からも「お客さまに紹介しやすい」「これからもっとお客さまのニーズが増えてきそう」という声が出ていて、反応は上々ですね。遠鉄グループが目指す「人を大切にする」という姿勢を、デジタル技術が補強してくれているのを感じます。

遠鉄グループ 2024年度~2026年度 中期経営計画より

桐岡氏: 今回、パズルリング社からの提案を不動産事業部の皆さんが形にしてくれたことで、「外部と組むと課題解決が早い」「こうやって進めればいいんだ」という事例ができました。プレスリリースを発表したことでも社内の関心が高まり、他部門からの問い合わせが増えています。このように成功体験を社内に積み重ね、次の新しいチャレンジを生み出す土壌を作っていきたいですね。

――お二人の役割分担が非常にスムーズに見えます。

桐岡氏:私たち地域共創推進室の役割は、従業員のチャレンジを促すために「薪(まき)をくべる」ことだと思っています。外部との接点を作り、新価値の火種を見いだすこと。

内山氏:そして事業部門である私たちが、くべられた薪でしっかりと燃え上がる(笑)。共創という新たな可能性に飛び込み、チャレンジする人材、チャレンジする組織でありたいですね。

――最後に、今後の展望をお願いします。

桐岡氏:今後は、オープンイノベーションを特別なものにせず、事業戦略の実行手段の1つとして社内に根付かせていきたいと思います。ハマハブ!も引き続き活用しながら、協業・共創を通じて地域に新たな価値循環を生み出し、持続的な成長につなげていくことが目標です。

内山氏:協業・共創は若手社員の挑戦をとくに刺激してくれるようです。どうしても目の前の業務に追われやすい事業部門ですが、まずは小さく始め、手応えを見ながら育てていく。それが社員の成長を促し、地域にとって本当に必要な会社に近づいていく一歩になると思います。

ハマハブ!に掲載中の地域課題一覧はこちら

https://www.hamahub.com/biz-project

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