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「浜松にはモノづくりの技術はあるが、それがうまく新商品開発につながらない」。そんな声をよく耳にします。創業132年、自動車の純正シートカバーや内装品を手掛けてきたサンショウ株式会社も、その悩みに直面した1社でした。
業界を取り巻く産業構造の大転換を目の前に、現場の困りごとをスタートアップとの共創で解決へ。ハマハブ!事務局との壁打ちを通じて自社の価値を再発見し、2社のスタートアップと共創を開始しました。
老舗のメーカーが「殻」を破ることができた理由は何か。ハマハブ!活用に至る経緯とその本音を、取締役・企画営業部長の武田哲弥氏(以下、武田氏)と開発部長の高松誠(以下、高松氏)に伺いました。

――まずは、御社の事業について教えてください。
武田氏:私たちは1894年に製糸業として創業以来、自動車の内装品、とくにシートカバーをはじめとする繊維製品を得意としてきました。現在はトヨタ自動車さまをはじめ、国内全メーカーの純正シートカバーにおいて一定のシェアを占めています。
強みは、サイドエアバッグの展開を阻害しない特殊な縫製技術や、シートの曲面に完璧にフィットさせる設計力です。安全性を担保しつつ、後付けに見えない機能美を追求しつづけてきました。
――圧倒的なシェアをお持ちですが、なぜ今、外部との共創に力を入れているのでしょうか。
武田氏:大きなきっかけは、自動車業界における構造変化です。これまでは「純正品」といえば、私たちのようなサプライヤーが企画段階から、設計・開発・製造まで一貫して担う点に強みがありました。
しかし最近では、一般消費者向けのカー用品を得意とする。市販メーカーの人気が高まっています。トレンドをいち早くキャッチし、新車の発売から数カ月で一般消費者向けのカー用品を市場に投入できることが強みだからです。しかもデザインが斬新で、ラインナップも豊富。そのスピードとデザイン性に注目が集まりつつあるのです。
高松氏:加えて、避けられないのが環境対応の波です。欧州ではすでに、自動車部品におけるサステナブル素材の使用比率に関する規制が法令化されました。日本でもいずれ同様の流れになるのではないか、と見ています。
そうとはいえ、自動車は人命を預かる乗り物です。どんな環境にも耐える品質が求められますが、再利用した資源を使いながら従来の基準をクリアするのは至難の業。それこそイノベーションと呼べる新素材や新商品の開発が必要になります。
そのとき社内の知見だけでは、この環境配慮と品質・デザインの両立というハードルを越えることは難しい。だからこそ、まったく異なる発想を持つ外部のパートナーを求めていました。

――外部連携は今回が初めてだったのでしょうか?
武田氏: いえ、共創と呼べるような取り組みは、弊社では何十年も前から行ってきたことです。たとえば、完成車メーカーへの新製品提案に向けた、パートナー企業との共同開発があります。
ただ、「あうんの呼吸」が通じる長年のパートナー関係だからこそ、出てくるアイデアが想定の範囲内に収まってしまうことも。新市場を切り拓くような画期的な発想は、異分野との掛け合わせから生まれるものかもしれません。
高松氏:それに、パートナーを探す方法もアナログで、非効率でした。インターネットで検索しては、「一度お話しさせてください」と電話し、面談するやり方を繰り返していたからです。
そして、マッチングを成立させるためには、弊社側の社員にも知識や経験が求められるので、カンコツに頼っていたことも課題といえます。
――そこで出会ったのが「ハマハブ!」だったのですね。
武田氏:はい。静岡県内企業と国内外のスタートアップをつなぐイベント「TECH BEAT Shizuoka」でハマハブ!の構想を聞き、「これだ!」とすぐに登録を決めました。というのも、ハマハブ!では事務局が間に入り、こちらの悩みと相手の強みを深く理解したうえで、可能性のあるスタートアップをつないでくれると聞いたからです。
浜松の地域課題に特化しているため、「浜松のこの課題を解決するために」という提案がもらえる安心感もありました。このように、気持ち=志や熱量のマッチングが期待できそうな点が、一番の魅力だと思いましたね。
――自社の課題を掲載することには、不安や抵抗感はありませんでしたか?
武田氏:「よりよい商品を創るために、よいパートナーを見つけたい」という一心でしたので、自社の課題を外に出すことに抵抗はありませんでした。セミナーやイベントに参加するなかで、スタートアップに対するポジティブな印象もありました。自分たちで市場を作ろうとする気概があり、アグレッシブな皆さんだ、と。
ただ、実際に一緒にやろうとなったときは手探りでした。「自動車業界の厳しい品質基準に準拠できるか」「どこまでやってもらえるだろうか」、わからない部分も多かったです。
高松氏:そこで、ハマハブ!事務局との面談では、全社の課題をすべてリスト化して伝えることにしました。すると担当者の方が、スタートアップ視点で私たちの課題をプロジェクトベースで整理してくれました。
具体的には、①既存事業の固定観念を打破する「新価値創造」と、②製造ラインの「効率化・自動化」という2つの軸です。

――事務局との壁打ちを通じ、多岐にわたっていた悩みが、具体的な「募集要項」に変わったのですね。
武田氏:そうですね。募集テーマを掲載したあとはエントリーも多くいただいており、2社との共創が始まっています。
高松氏:1つ目は、ミライのゲンバ社との品質管理業務のデジタル化です。実は弊社では、品質管理の現場では諸事情があり、寸法測定記録を長らく手書きで行っていました。
過去にITベンダーにデジタル化を相談したこともありましたが、「人によって字の癖が違うので読み取れません」「これ以上の対応は仕様外です」となかなか共創が進まず……しかし、ミライのゲンバの皆さんは、反応が前向きで驚きました。
実際の現場を見てもらったところ、「その機能は他社でもニーズがあるはずだから、プロダクト開発に取り込みます」と合意してくれたのです。あとからの改修にも、必要なアップデートだとして柔軟に対応してくれました。
――高度な製造現場でも、アナログな工程が意外と残っているのですね。
高松氏:そうですね。私たちとしては「デジタル化が遅れている部分」であり、本来なら外部に見せない部分です。ですが、共有できないと思っていた現場のリアルな課題こそが、スタートアップにとっては「プロダクトを磨くための種」なのだと思いました。
そこから、「機密情報を避け、ここまでの情報なら伝えてもよい」といった事前知識を整理しました。こうして、自社の課題を包み隠さず共有できたことが、結果としてコストも抑えつつ、現場に即した使いやすいシステム導入につながったと思います。
人によって癖のある手書き文字でも高精度で読み取れるうえ、導入コストも圧倒的に安い。海外拠点への展開も見据え、現場への導入を一気に進めています。
――共創によるすばらしい成果だと思います。もう1つの共創プロジェクトについても教えていただけますか?
武田氏:もう1つは、デザイン会社・メイクスアンドシングス社とのサステナブル素材開発です。海洋プラスチックなどの再生材を活用し、新商品を作るプロジェクトを始めています。
本件からは、世の中になかった商品や素材が生まれると思っています。量産化の壁もありますが、未踏の領域だからこそ取り組む価値があると信じ、毎月のように膝を突き合わせて試作を重ねています。

―― 2社との取り組みを通じ、改めて自社の課題や、そこにある価値をどのように俯瞰していますか?
武田氏:改めて感じたのは、私たちが長年、自動車業界という厳しい環境で培ってきた技術は、スタートアップの皆さんと真剣に対話することで、予想以上の化学反応を起こすということです。
いま共創を進めている2社は、私たちの課題の本質に入り込み、共に悩みながらソリューションを構築しています。そうして磨かれた技術は、当社1社だけの業務改善ツールに留まらず、いずれ他の企業や産業にも展開できる‟新価値”へと進化していくはずです。
高松氏:私たちのようなサプライヤーは伝統的な業界だからこそ、アナログな業務もまだ残っています。ですが、そうしたアナログこそ“改善の余地”であり、スタートアップの皆さんが取り組むチャンスそのものなのかもしれません。
そのチャンスをチャンスのままで終わらせず、共創という形で新価値につなげていくためには、現場課題の言語化と、それを隠さず共有する心構えが必要なのだと思います。
――スタートアップと組むメリットも感じられたでしょうか?
武田氏:はい。組織としての学びが大いにありました。スタートアップの皆さんはとくに意思決定が速く、すぐ行動に移していきます。そうした仕事の進め方を含め、1つのプロジェクトを形にする経験をしてほしい――そんな考えから、今後は社内の若手社員にもプロジェクトに入ってもらいたいと考えています。
新たな価値を創り出す大変さと、それを超えた時の達成感を味わうことこそが、これからの時代を生き抜く社員にとって、一番の成長につながると考えています。
――最後に、ハマハブ!への掲載を検討している地場企業の皆さんへメッセージをお願いします。
武田氏:ハマハブ!は、浜松市が運営するプラットフォームであり、募集テーマの掲載も無料です。ですから、まずは掲載してみてはいかがでしょう? せっかく市が用意してくれている機会なら、フル活用しない手はないと思います。
高松:そうして理想の相手とマッチングできたら、それはもう最高なことですよね。「何を掲載したらいいのかわからない」「どんな提案が来るか分からず不安だ」と思う方も、事務局との面談で考えを整理できると思います。
意外なことが新価値につながります。「うちには何もない」と思っている方も、まずは事務局に悩みをぶつけてみてはどうでしょうか。そこから、思いもよらないヒントが得られるはずです。
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